自然療法医学―ナチュロパスィーの成立
日本科学振興財団理事
自然療法医学は、分類上は伝統医学の1つということになる。伝統医学は約5000年前に起源をもつインド医学(アーユルヴェーダ)、中国医学、日本独自に発展した漢方医学、鍼・灸、ユナニ医学、チベット医学、ホメオパシー、温泉療法、そして自然療法医学などからなる。自然療法医学(Naturopathy)は、生来身体が持っている自然治癒力を駆使して、病気を治そうとする医学である。身体に自然治癒力があるという考え自体の歴史は非常に古く、伝統医学の中にも見られる。共通する心身相関に関する基礎概念は、まず心身一如であること。体液の構成要素の不均衡で心身に異常が起こるが心と体は相互に密接に関係していることである。インド医学では体と心、さらには内奥に魂(アートマー)の存在を仮定する。
もちろん、現代の西洋医学においても、究極的には自然治癒力に頼っているが、18世紀から19世紀の中葉までは「英雄医学」の時代で、瀉血(しゃけつ)などの乱暴な治療法により、患者を死亡させたと言われているが、このような英雄医学に対する疑問から生まれた医学の流れの一つが、ナチュロパシーである。 Naturopathy「ナチュロパシー」と云う用語は、19世紀の末、米国に移住したドイツ出身の医師、ベネディクト・ルストBenedict Lust(1872年〜1945年)がニューヨーク市に「Health Food Store」健康食品店、「Health Spa」健康スパ、を開設し、「Naturopathic College」自然療法医科大学を創始したことから広まった。
現在米国では、ワシントン州、オレゴン州、アリゾナ州など13州で自然療法医科大が開設され、バスティア大学、ナショナル自然療法医科大学、アーユルベーダカリフォルニア大学、エヴァグレイズ大学などで 自然療法医学、東洋鍼療法、栄養学、ハーブ学、中国医学、アーユルヴェーダ、ホリスティック医学などを単位取得学科として教えている。
カナダには8つの自然療法医科大学がある。バスティア大学の創始者で、クリントン、ブッシュ両大統領のもと代替医療政策にも関わったジョセフ・ピゾーノによると、自然療法医学は、 @患者に負担をかけない:安全、効果的かつ自然な治療 A自然治癒力の喚起:医師は患者の自然治癒力を高めることに努める B原因を特定し治療する:症状を抑えるのではなく原因を探る C患者全体を診る:患者の心身のみならず、感情、精神面、社会的背景も考慮する D医師は教師:健康に対する患者の自己責任を教え導く E予防は最良の治療:健康維持の生活習慣は疾病を防ぐ F健康の確立保持:患者の積極的な肉体的かつ精神的な状態を増進させる。
実際には、自然療法医学は何世紀にも亘る自然で、副作用の無い治療をもとにした疾病に関する知識と健康・人体のシステムに関する最新の知識との集大成と呼べるものである。自然療法医学の研究領域はプライマリーケアーはもとより家族に関する情報、小児科から老人科(老人病学)まであらゆる自然医学モダリティーが含まれる。
ナチュロパシーの医師は、食餌療法、臨床栄養学、生活の仕方(ライフスタイル)の指導、 ホメオパシー 、鍼治療、薬草療法、水療法、運動療法、マッサージ、電気治療、超音波療法、光療法、カウンセリング、薬物療法などを組み合わせて治癒に導く。世界保健機構(WHO)も、通常の医学とナチュロパシーの統合医療を勧めている。 |